日刊コタノト。

ランニングと「食」を中心とした日々の雑多な記録を綴るノート。

タリウムとその周辺

タリウムが巷で話題になっているので、ちょっくら勉強してみました。これでも一応化学者だったもんで。

ちなみに話題になっているのはこちらのニュース。怖いですねー。

参考 ▷ タリウム事件に興味か 名大生 高1少女の殺人未遂 - 産経ニュース

元素111の新知識

勉強、といってもそれほど大層なもんではありません。本をちょろっと読んだだけです。

読んだのはこちらの本。

元素111の新知識 第2版増補版 (ブルーバックス)

元素111の新知識 第2版増補版 (ブルーバックス)

 

一家に一冊、『元素111の新知識』。わりと重宝します (上のリンクは最新の増補版ですが、ぼくの手元にあるのは初版です) 。

文庫とはいえ、二段刷り400ページを越える大著なので、通読しようと思うとけっこうハードです (一度は読んでみると面白いです) 。が、気になったところを調べるだけなら、大した手間でもありません。

タリウムの項は3ページ。トイレに入りながら、さくっと読むことができました。

タリウム

タリウム (Tl) は81番目の元素で、周期表ではアルミニウム (Al) やガリウム (Ga) 、インジウム (In) の下に位置しています。13族、半金属元素ですね。他の同族元素同様、柔らかいです。わりとなじみ深い連中と仲間なんですねー。

歴史的にはイギリス人化学者 (物理学者) クルックスが、分光分析によって発見しました (1861) 。燃やすと緑色に発光 (炎色反応ですね) することから、ギリシャ語で「新緑の若々しい小枝」を意味する"thallos"にちなんで命名 (Thallium) されました。

参考 ▷ タリウム - Wikipedia

分光学

分光分析 (spectroscopy) という手法を確立したのは、キルヒホフとブンゼンだそうです。かれらはこの手法を用いて、セシウム (Cs) やルビジウム (Rb) を発見しています。

キルヒホフは電磁気学や化学の他の分野でもたびたび登場しますね。キルヒホフの法則!思ってたよりもずっと偉大な科学者だったんだなあ (失礼笑) 。ちなみにブンゼンは、ブンゼンバーナーのひとです。

分光学の歴史って、そいえば全然知らないです。今でこそ原理は量子力学で説明されていますが、分光学が生まれたのは量子論以前です。

とゆうか、原子スペクトルの研究で出てきた疑問が、量子論の誕生につながっていきます。バルマー系列とかあのあたりのはなし。

キルヒホフの測定や実験が実際はどのように行われていたのか、てのはちょっと興味深いですね。電磁気学量子論の間に位置する科学史。いずれ調べてみよー。

参考 ▷ グスタフ・キルヒホフ - Wikipedia

クルックス

タリウムの発見者であるクルックスは、ほかにも陰極線や、さらにはX線発見に繋がるような研究をしていたようです。(クルックス管、てのがあります)

X線はぼくもわりとなじみがあるので、何やら不思議なご縁を感じます。

後年は心霊の研究もしていたんだとか。言われてみればちょっとエキセントリックな顔してますね (主にヒゲ笑) 。

参考 ▷ ウィリアム・クルックス - Wikipedia

他にもマイケル・ファラデーの有名な『ロウソクの科学』を編集したのも、このひとなんだそうです。いろいろ手広くやってたんですねー。

ロウソクの科学 (岩波文庫)

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毒としてのタリウム

タリウム化合物は毒性が高く、例えば硫酸タリウム (Tl2SO4) は殺鼠剤、殺蟻剤として用いられています (語感からしてだいぶ強そうですね笑) 。もちろん人間に対しても毒です。

話題のニュースでは主に「タリウム」としか書かれていませんが、実際に用いられたのもおそらく何かしらのタリウム化合物なのでしょう。ひえー恐ろしい!

わが家のネズミも怯えています。

……。

えっと、1価のタリウム (Tl+: 1.38Å) は、カリウムイオン (K+: 1.50Å)とイオン半径が近いことから、カリウムと間違えて体内に取り込まれてしまいます。結果として、カリウムが関わる反応を阻害してしまう、てのが毒としてのメカニズム、と考えられています。

ちなみに、アガサ・クリスティのミステリ『蒼ざめた馬』にもタリウムが毒薬として登場するんだとか (未読です。これ、ネタバレだったらごめんなさい笑) 。

蒼ざめた馬 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

蒼ざめた馬 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

医療利用と電子捕獲

一方で、カリウムのイオン半径との類似性は、医療の分野で応用されています。少量なら体に入っても問題ない、どんな薬品 (に限らず、科学技術全般) でも、使いかた次第で毒にも薬にもなる、てことですね。おお科学の功罪。

タリウム放射性同位体201Tlは、電子捕獲 (electron capture) によってγ線を放出します。これを心筋やがんの画像診断に利用します。

電子捕獲 (EC) というのは、最内殻のある電子が、原子核に取り込まれる現象 (反応?) です。放射性崩壊の一種ですね。取り込まれた電子は陽子と反応して中性子に変化し、ニュートリノが放出されます。もとの元素は原子番号がひとつ減ります (つまり別の元素へ変化します。タリウムの場合は、水銀 (Hg) です) 。

で、電子があった内側の軌道に空きができるので、外側から電子が下りてきて孔を埋めます。このとき、軌道のエネルギー差に相当する電磁波が放出されます。それが特性X線 (タリウムの場合、波長の領域がγ線) です。

ちなみに、その特性X線が放出されるとき、さらに外側の電子に当たることがあります。このときに弾き飛ばされて出てくる電子を、オージェ電子といいます。

オージェ電子!名前だけなら聞いたことありましたが、その正体をはじめて知りました。

さいごに

つーわけで、ちょろっと調べてみたら自分がやってたフィールドと近いはなし (おもにX線) にぶつかって面白かったので、軽くまとめてみました (てまあ、おんなじ化学だから当たり前なんですが) 。